「配当や株の売却益で、社会保険料が上がるようになるらしい」
そんな話を聞いて、調べてみました。
結論から言うと——2026年5月、法律がすでに成立しています。
ただし、慌てる必要はありません。
対象はいまのところ75歳以上。
施行は早くても2029年度以降。
そしてNISAは対象外とされています。
でも「自分には関係ない」で流していい話でもありませんでした。
FIREを目指す人・した人にとって、これは出口設計の前提が変わる話だからです。

📖 この記事でわかること
- 2026年5月に成立した「金融所得を保険料に反映する」法改正の中身
- FIREした人への影響——「申告しなければ保険料に響かない」という定番テクの寿命
- 対策は3つ。NISAに寄せる/配当型より取り崩し型/大口の利益確定は75歳前に
こんにちは。18年勤めた県庁を早期退職し、主夫FIRE中のなおです。
先にお断りしておくと、僕はまだ資産の取り崩しを始めていませんし、75歳でもありません。
これは体験談ではなく、FIREの出口を設計している当事者として、成立した法律を読み込んだ話です。
2026年5月、何が決まったのか

まず、決まったことの整理から。
2026年5月29日、健康保険法などの改正が国会で成立しました。
柱はこれです。
📜 改正の中身
後期高齢者医療制度(75歳以上)の保険料と、病院での窓口負担割合の判定に、確定申告の有無を問わず「上場株式などの配当・利子・譲渡所得」を反映する。
ポイントは「確定申告の有無を問わず」の部分。
これまで、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で完結させて申告しなければ、配当や売却益は保険料の計算に入ってきませんでした。
今回の改正で、証券会社などから取引の記録が自動的に行政へ届く仕組みができます。
申告してもしなくても、保険料の計算に乗る。
そういう世界に変わります。
配当・売却益は保険料の計算に入らない
配当・利子・譲渡所得が保険料に反映される
改正の骨格。まず75歳以上(後期高齢者医療制度)から始まる
事実を表で整理する
| 項目 | 決まったこと |
|---|---|
| 成立 | 2026年5月29日(すでに法律。「議論中」ではない) |
| 対象者 | まず75歳以上(後期高齢者医療制度) |
| 反映されるもの | 上場株式などの配当・利子・譲渡所得(申告不要でも) |
| 反映される先 | 保険料と窓口負担割合(1〜3割)の判定 |
| 施行時期 | 法律上は「公布後5年以内」。所得の把握開始が早くて2029〜2030年度頃、保険料に実際に反映されるのはその翌年度あたりの見込み |
| NISA | 対象外(厚労省資料・報道で明記) |
| 今後 | 国民健康保険・介護保険への拡大が「検討」対象(未確定) |
※施行時期は今後の政省令で確定します。最新情報は厚労省の資料でご確認ください。
なぜこんな改正が入ったのか。
背景には、わかりやすい不公平がありました。
たとえば75歳以上で、配当を年500万円受け取っている人。
申告しなければ医療保険料は年1.5万円ほどですが、申告すると約52万円——という試算があります(出典は記事末尾)。
しかも窓口負担まで、申告なしなら1割・申告すると3割に分かれます。
同じ収入なのに、申告するかどうかで保険料が30倍以上違う。
制度の穴をふさぐ、と言われればそのとおりです。
ただ——「貯蓄から投資へ」と背中を押されて動いた側からすれば、あとから追いかけてルールを変えられる話でもあります。
批判の声が多いのも、うなずけます。
それでも、成立した法律は動きません。
だからこの記事は、嘆くことより自分の設計をどう直すかに時間を使います。
FIREした人に、どう関係するのか

「75歳以上の話でしょ?」——はい、いまはそうです。
でもFIREを考える人には、二段階で関係してきます。
FIREすると、あなたは「国保の人」になる
会社や役所を辞めると、健康保険は国民健康保険、年金は国民年金に移ります(配偶者の扶養に入れる場合を除く)。
これはフルFIREだけの話ではありません。
フリーランスや短時間のバイトで働くサイドFIREでも、勤め先の社会保険に入らない限り、同じく「国保の人」です。
国保の保険料は「前年の所得」で決まります。
そしてFIRE後の収入源である配当や売却益は、申告しなければ保険料の計算に入らない。
FIRE関連の本やブログで「FIRE後の国保料を抑える方法」として、くり返し紹介されてきた仕組みです。
その定番テクに、寿命が見え始めた
今回の改正は、後期高齢者医療制度だけの話です。
ただし、改正の議論では国民健康保険・介護保険への拡大が「検討」対象とされています。
やるかどうかも、いつやるかも、まだ決まっていません。
でも、75歳以上で「証券会社から行政に記録が届く仕組み」が一度できあがれば、それを国保に広げるハードルは、ぐっと低くなります。
だから僕はこう考えています。
「申告不要なら保険料に響かない」は、ずっとは続かない前提で設計しておく。
続けば儲けもの、来ても困らない。
そういう置き方です。

FIREには「出口の出口」がある

ここが、この記事でいちばん伝えたい視点です。
FIREの設計は普通、「年4%で取り崩せば資産が死ぬまで持つか」を確かめて終わります。
仕事からの出口。これが「出口」です。
でも40歳でFIREする人の設計は、そこから40年、50年続きます。
そして75歳になると、全員が後期高齢者医療制度に移ります。
今回の法改正で、この「75歳の門」の先では、金融所得が3つの判定に使われるようになりました。
保険料の計算に乗る
1割か2割か3割かの判定に
区分の判定に
75歳以降、金融所得が反映される3点セット
特に注意したいのは、②と③です。
①の保険料は、所得に応じてじわりと増えるタイプ。
痛いですが、増え方はなだらかです。
一方、②と③はしきい値型。
判定の境目を超えた瞬間、負担が段差で跳ね上がります。
たとえば75歳を過ぎてから特定口座の資産を大きく売却すると、その翌年、病院の窓口負担が1割から3割に跳ねることがありえます。
3割負担になる「現役並み所得」の基準は、課税所得145万円以上——大口の売却益なら、一発で超えてしまう数字です。
医療費がいちばんかかる年齢で、医療費の負担率ごと上がる。
だからFIREの設計には、「出口」のさらに先——75歳の門をどうくぐるかという「出口の出口」まで含めておくと、より安心です。
対策はシンプルです。
ここから3つ、順番に見ていきます。
対策①:NISAなら、とりあえず大丈夫

最初の対策は、いちばん単純です。
NISA口座の中の配当も売却益も、この仕組みの対象外。
厚労省の制度資料に、そう明記されています。
NISAの中で何をどれだけ売っても、保険料にも、窓口負担の判定にも、出てきません。
守りの本丸は「75歳以降の取り崩し」
正直に書くと、FIRE生活のすべてをNISAだけでまかなうのは、簡単ではありません。
生涯投資枠は1人1,800万円。仮に満額を入れ切って、評価額が倍に育っても3,600万円——年4%の取り崩しなら年144万円です。
単身世帯の平均的な生活費は月17〜19万円——年に直すと210万〜230万円ほどですから、これだけでは届きません。
でも、思い出してください。
この改正で確定しているのは「75歳の門」の先の話です。
75歳以降には、生活の土台に年金があります。
資産の取り崩しは「年金で足りない分の上乗せ」に変わります。
75歳以降の取り崩しなら、NISA枠1人分でもこの規模になる(「30年で倍」は年率約2.4%と、控えめな想定です)
年金に月12万円を上乗せできれば、暮らしの余裕はかなり違います。
夫婦2人分の枠が使えれば、この倍です。
※年金額はFIREの時期や国民年金の納付状況で大きく変わります。FIRE後も国民年金を納め続けるのが、この設計の大前提(免除にすると基礎年金は半分になります)。自分の見込み額は「ねんきんネット」で確認できます。
つまりこう言えます。
FIREの全部をNISAでまかなうのは難しくても、「75歳の門をくぐるとき、取り崩しはNISAだけで完結している」という設計なら、多くの人に届く現実的な目標です。
もちろん、満額の1,800万円を入れ切ること自体、簡単なことではありません。
でもこの設計は、満額が条件ではありません。
NISAに寄せた分だけ、75歳以降の安全圏が広がる——そういう比例の話です。
そこまで寄せ切れていれば、保険料も、窓口負担も、高額療養費も——この改正はあなたに何もできません。
使う順番は「特定口座が先、NISAは最後」
「じゃあ、75歳までの生活費はどうするの?」と思いますよね。
答えは、使う順番です。
先に特定口座(と現金)を使い、NISAは最後まで温存する。
FIRE後の暮らし方が変わるわけではありません。変わるのは財源だけ。
75歳までは特定口座と現金が主役、年金が始まったら取り崩しは「上乗せ」に縮み、75歳からはその上乗せをNISAが引き受ける——そういうリレーです。
実はこれ、保険料対策のための特別な動きではありません。
非課税の複利をいちばん長く効かせるという、資産運用の定石そのままです。
定石どおりに使っていけば、75歳の門をくぐる頃には、特定口座は自然と軽くなっている。
その状態を意識的に作りにいくのが、このあとの対策③です。
ちなみに僕自身、NISA口座は楽天証券で運用しています。これから「NISAに寄せる」を始める人の選択肢としてどうぞ。
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⚠️ ひとつだけ例外がある
税金と保険料の世界はNISAを見ません。
ところが「家族の扶養に入れるか」の判定だけは、NISAの売却も収入と数えることがあります。
配偶者の扶養に入ってFIREする人は、こちらの記事をどうぞ。
対策②:配当型より、取り崩し型

次は、NISA枠に収まりきらず特定口座(課税口座)にも資産がある人の話です。
同じ「年240万円を生活費にする」でも、高配当株の配当でまかなうのと、インデックス投信を売却してまかなうのとでは、保険料の世界での見え方がまったく違います。
※以下の比較は、確定申告をする場合や、金融所得の反映が国保などに広がった場合の話です。いまの国保では、申告不要を選べば配当も売却益も保険料に乗りません。
受け取った全額が所得になる。
所得に数えられるのは240万円
しかも毎年、自動的に発生し続ける
所得になるのは値上がり益の部分だけ。
所得に数えられるのは120万円
売るかどうかも自分で選べる
同じ生活費240万円でも、「所得」としての姿は倍違う
理由は2つあります。
ひとつめ。
配当は受け取った額面の全額が所得ですが、売却は「売値から買った値段を引いた、値上がり益の部分」だけが所得です。
たとえば240万円分を売却して、そのうち半分の120万円が値上がり益だったとします。
所得に数えられるのは、この120万円だけです。
ここで保険料の計算に戻ります。
国保などの保険料には、「所得 × およそ1割」で決まる部分(所得割)があります。
配当で240万円の人は、所得240万円 × 1割 = 保険料の所得割が約24万円。
売却で240万円の人は、所得120万円 × 1割 = 約12万円。
同じ240万円の生活費を用意して、保険料が年12万円違う計算です(実際は所得から基礎控除43万円を引いた額に料率をかけます。ここでは差をつかむための概算です。料率は制度・自治体で異なります)。
ふたつめ。
配当は、持っているだけで毎年自動的に振り込まれ、そのたびに所得として数えられます。
いわば断れない収入です。
売却はその逆で、売らなければ所得はゼロ。
所得を出すかどうかを、自分で決められます。
所得に数えられる額は半分以下、出すかどうかも選べる——配当には、どちらの選択権もありません。

ひとつ補足しておくと、含み益の割合は保有年数とともに上がっていきます(30年保有すれば7〜8割が利益、ということも普通に起こります)。
利益の割合が増えるほど、所得に数えられる部分は配当に近づいていく——売却の優位は、年々少しずつ目減りしていきます。
対策③:大口の利益確定は、75歳前に済ませる

最後は、75歳の門をくぐる前にやっておくことの話です。
原則はひとつだけ。
🎯 対策③の原則
特定口座の大きな含み益は、75歳になる前に利益確定を済ませておく。
期限は「75歳になる年の、前々年まで」。
保険料や窓口負担の判定は前年の所得で行われるので、74歳の年の売却益は、後期高齢者1年目の判定にそのまま乗ってしまうからです。
ギリギリの駆け込みが、いちばん損なタイミングになります。
「でも、うちの特定口座に資産が残ってるかな?」と思った人のために、残る理由を3タイプに整理しました。
- 資産がNISAの生涯枠(1人1,800万円)を超えている
- 枠は埋まっていて、あふれた分が特定口座に
- NISAで買えない商品を持っている(レバレッジ型投信・海外レバETF・個別債券など)
- 個別株派で、つみたて投資枠(最低600万円分)が余っている
- 特定→NISAの買い直しは「税金がその場で確定するのが嫌」で先送りしてきた
- 枠は余っているのに、特定口座に含み益が積み上がっている
特定口座に資産が残る3つの理由。あなたはどのタイプ?
心理タイプへ:「いつかやろう」に、締切ができた
特定口座を売ってNISAで買い直すべきか。
理屈のうえでは「早く移すのが得」でほぼ決着している話です。
それでも、売った瞬間に税金20.315%が確定するのが嫌で、先送りしている人は少なくありません。
頭ではわかっている。でも、動けない。
今回の法改正は、そこに新しい材料を持ち込みました。
NISAに移した資産は、保険料の世界の外に出る(少なくとも現行の方針では)。
そして移すなら、75歳の前々年までという締切がある。
税金の損得だけなら永遠に迷えますが、締切があるなら話は別です。
量タイプへ:「益出し」という正攻法がある
枠が埋まっている人は、NISAには逃がせません。
それでもできることがあります。
特定口座の中で売って、同じ商品を買い戻す——「益出し」と呼ばれる、昔からある正攻法です。
数字で見てみます。
🧮 益出しの例
- 元本1,000万円・評価額2,000万円の投信を、74歳までに売却
- 利益1,000万円に税金約203万円がかかる
- 翌営業日以降に、同じ商品を2,000万円で買い戻す → 新しい元本は2,000万円。含み益はゼロにリセット
- 75歳以降に生活費で売っても、所得になる利益はほぼゼロ → 保険料・窓口負担の判定に乗らない
※買い戻しを同じ日にやってはいけません。税金の計算上「買いが先」と扱われて取得単価がならされ、益出しの効果が薄れます。買い戻しは翌営業日以降に。
「税金を203万円も先に払って、損じゃないの?」と思いますよね。
僕も最初そう思いました。
でも、この203万円はやらなくても、いずれ売るときに払う税金です。
むしろ含み益が育ってから売れば、もっと払います。
つまり益出しは新しい負担ではなく、いずれ払う税金の「前払い」と引き換えに、75歳以降の保険料と窓口負担を買い戻す取引です。
本当のコストは「先に納めた税金分の運用機会」だけ。
得るものは、75歳以降ずっと続く判定所得の圧縮です。
※厳密な損得は含み益の割合・お住まいの料率・保険料の上限額などで変わります。この記事は考え方の骨格までにとどめます。
商品タイプへ:どうせ降りるなら、75歳前に
ここは僕自身の話でもあります。
僕はレバレッジ型の投信やETF(いわゆるレバナスやSOXL)を特定口座に持っています。
こうした商品は新NISAでは買えません(旧・一般NISAでは買えたのですが)。
いまは強気で持ち続けている人でも、高齢になったら激しい値動きを嫌がる人は多いと思います。
どこかで手堅い商品に乗り換えよう——そんな出口を、頭の隅に置いているのではないでしょうか。
だったら、その「降りるタイミング」を75歳の前々年までに設定しておくのもアリかと。
リスクを落とす作業と、保険料対策の利益確定が、一度で済みます。
売却資金はNISA枠が空いていればNISAへ。
埋まっていれば、特定口座で手堅い商品に買い直せば、それ自体が益出しになります。
⚠️ 扶養に入っている人は、もう一つ確認を
配偶者の扶養(特に共済組合)に入っている場合、大口の売却が「収入」と数えられて扶養の認定に触れることがあります。
売る前に、扶養の側のルールも確認してください。
まとめ:法律は変わる。でも、設計で守れる
最後に、この記事の全体を一枚にします。
今回の法改正を「増税だ、改悪だ」と騒ぐこともできます。
でも、成立した法律は変わりません。
変えられるのは、自分の設計だけです。
幸い、この改正は施行まで数年、対象拡大は未定、そしてNISAという明確な安全地帯つき。
30代・40代でFIREを設計している人には、75歳まで30年以上の持ち時間があります。
慌てず、出口の出口まで描いておく。
それだけで、この改正はほとんど怖くなくなります。

- 厚生労働省「医療保険制度改正法が成立しました」(健康保険法等の一部を改正する法律・2026年5月29日成立)
https://www.mhlw.go.jp/stf/…/newpage_00014.html - 大和総研レポート(2026年1月7日・金融所得の保険料反映の整理)
https://www.dir.co.jp/report/…/20260107_025505.html - 日本経済新聞「医療・介護保険料に金融所得反映案、NISAの収益は対象外 厚労省」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1886S0Y4A610C2000000/ - 配当500万円の保険料試算:イオン銀行 タマルWeb「金融所得課税の強化で、配当収入がある高齢者は社会保険料が増えるって本当?」(元データは財務省資料)
https://www.aeonbank.co.jp/column/tax/kinyushotokukazei/kyouka/ - 単身世帯の平均消費支出:総務省「家計調査報告」2025年
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.html
※保険料の料率や窓口負担・高額療養費の基準は、制度・自治体・年度によって異なります。この記事は2026年7月時点の法律・公表資料に基づいています。最新の情報は厚生労働省など公的機関の資料でご確認ください。

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