「iDeCoは受け取るときも、退職所得控除で非課税にできます」——
iDeCoの解説で必ず出てくるこの一文、退職金が多い公務員には、そのまま当てはまりません。
こんにちは。
18年勤めた県庁を早期退職し、主夫FIRE中のなおです。
前回は「FIREを目指す人のiDeCo」を計算しました。
今回はその続編です。
- 積み立てるとき:掛金の分だけ所得税・住民税が安くなる(ここが最大のメリット)
- 運用中:利益に税金がかからない
- 受け取るとき:ここだけ、税金がかかることがある——本記事はこの「出口」の話です
※iDeCoの基本や「そもそもやるべきか」は前回の記事で。
このブログは早期リタイアを考える人向けに書いていますが、
現実には、迷った末に定年まで勤める道を選ぶ人も多いはず。
今回は「定年まで勤め上げた場合」の出口を、正面から計算します。
僕自身は早期退職した側なので、この壁にはぶつかりませんでした。
でも、定年まで勤めるなら、誰もが必ず通る出口です。
- 公務員の退職手当は、非課税の枠のほとんどを使ってしまう(iDeCoに残るのは約210万円)
- ネット定番の「受け取り時期をずらす」は、公務員には効かない——でも慌てなくていい。どう受け取っても税額はほぼ同じになる仕組みだから
- 出口で少し課税されても、iDeCoはNISA一本に勝つ。そして受け取り方しだいで、出口の税金はゼロにできる
非課税の枠は「1人にひとつ」——あなたの退職金は、枠に収まる?
まず、この記事に何度も出てくる言葉をひとつだけ。
「退職所得控除」=退職金のうち、税金がかからない上限額のことです。
この金額までは、退職金を丸ごと非課税で受け取れます。
以下、この記事では「非課税の枠」と呼びます。
そしてポイントはここ。
iDeCoの一時金と退職金は、税金の上ではどちらも同じ「退職所得」。
だからこの非課税の枠を、2つで分け合う関係にあります。
枠の大きさは、勤めた年数で決まります。
計算はシンプルで、最初の20年は1年あたり40万円、21年目からは1年あたり70万円を積み上げていくだけ。
※iDeCo側は「掛金を拠出した年数」で同じ計算。拠出を止めて運用だけの期間はカウントされません。
※勤続38年(22〜60歳)なら800万円+70万円×18年=2,060万円。入職が遅い人はその分小さくなります(院卒24歳入職なら勤続41年で2,270万円)。
そして、公務員の退職手当の平均はというと——
※中途退職も含めた全退職者の平均はずっと低くなります。この記事はあくまで「定年まで勤めた場合」の話
ここで「退職金+iDeCo」と枠の関係で、人は大きく2つのゾーンに分かれます。
※中間の人(大手で退職金1,800万円など、合計すると少しはみ出す人)も、考え方はゾーン2と同じ。はみ出す量が少ないぶん、調整はずっと楽です。
民間は退職金がバラバラ(中小約1,150万〜大手約2,240万、そもそも制度がない会社も約25%)なので、どのゾーンかは「人による」。
でも公務員は違います。
新卒から定年まで勤め上げれば、平均でおよそ2,100万〜2,200万円台。
(※中途採用などで勤続が短い人は、勤続年数に応じて下がります)
そして、あなたの定年はおそらく65歳です。
1967年4月2日以降に生まれた人——つまり、いまの50代以下のほぼ全員——は65歳定年(2023年度から段階的に引き上げ中で、2031年度に完成します)。
65歳定年なら、勤続43年で枠は2,410万円。
そこから退職手当2,200万円を引くと——
つまり読者のほとんどは、退職手当が枠のほとんどを食い、iDeCoには"すきま"しか残らないゾーンにいます。
※60歳の「役職定年」は管理職を外れる制度で、退職手当の受け取り時期は変わりません。
「退職金が手厚い」という公務員の強みが、iDeCoの出口では逆に効いてくる。
これがこの記事のテーマです。
ネット定番の「ずらして2回使う」が、公務員には効かない
「退職金とiDeCoの受け取りを何年かずらせば、枠を2回使えて両方非課税」——
これもよく見る解説です。
そして半分は本当。
ただし、使えるのは受け取り時期を動かせる人だけです。
前提をひとつ。
iDeCoの一時金は、最速でも60歳にならないと受け取れません。
そのうえで、ずらしには順番ごとにルールがあります。
※あける年数は2026年受け取り分から5年→10年へ延長。最速60歳+10年=退職金の受け取りが70歳以降になる人しか使えません。受け取り時期を自分で決められる経営者などを除けば、民間でも実質使えない手です
そして公務員の場合——
退職手当は、退職した年に受け取るもの。
定年まで勤める前提なら、受け取る年を自分で選ぶことはできません。
ここで、ちょっと悔しい話をします。
公務員の定年はいま、段階的に65歳へ引き上げられている途中です。
定年が65歳になると、「iDeCoを60歳で受け取り→退職手当を65歳で」という5年のずらしが、公務員にも初めて可能になるはずでした。
以前のルール(5年ルール)なら、この5年で、枠は2回フルに使えたはずだったんです。
ところが2025年の税制改正でルールが変わり、2026年1月の受け取り分から、あける年数は5年→10年に延長されました。
定年65歳は動かせない。
iDeCoの受け取りは60歳から。
10年は、どうやっても作れません。
つまり公務員は、「ずらして2回使う」という道具が構造的に使えない。
ここまでが、残念なお知らせです。
でも——ここからが本題。
実は、ずらせなくても大した問題ではありません。
「控除がほぼ消える」は計算ミス。本当の税額を計算する
「ずらせないと控除が使えず、税金が百万円級になる」——そんな解説を、いくつも見かけます。
でも、こうした計算の多くは方法が間違っています。
ここからの計算は、すべてこの人で通します。
- 22歳入庁・65歳定年(勤続43年)の公務員
- 退職手当2,200万円
- iDeCoの残高は60歳時点で800万円(35〜60歳の25年拠出)
※800万円は計算用の仮置きです(次章の「月1万円を65歳まで積んだ場合」の到達額・約797万円とほぼ同水準)。
この人が「iDeCoを60歳で一時金→退職手当を65歳で」と受け取ったとします。
iDeCo側は自分の枠(加入25年=1,150万円)に収まるので税金ゼロ。
問題は、5年後の退職手当です。
よくある誤解の計算
「勤続43年のうち、iDeCoと重複しない18年分だけで枠を計算し直す」
→ 枠720万円 → 税額約183万円
正しい計算(国税庁の方式)
ルールはこうです:後から受け取る側の枠 = 通常の枠 −(先に使った分)
ポイントは2つ。
- 引かれるのは「先に実際に使った金額」に相当する分だけ(使っていない枠まで消えない)
- 端数は切り捨て=受け取る側に有利な方向
※「同時」はiDeCoを金額固定で65歳まで置いた場合。正しい計算の枠=2,410万円−先に使った800万円=1,610万円。
正しく計算すると、5年ずらしても、同時に受け取っても、税額は同じ。
これは偶然ではありません。
仕組みを見るかぎり、この重複調整は「ペナルティ」ではなく「二重取りの防止」です。
先に使った控除の分だけを、後から公平に差し引く——だから、受け取る順番や時期をどう変えても、非課税にできる総量はほぼ一定になるよう設計されています。
本丸の検証——それでも、NISA一本よりiDeCoは得なのか
当然の疑問です。
さっきの公務員が、35歳から月1万円をiDeCoに積み立てていたとして計算します(65歳の定年まで30年・年5%・税率20%=所得税10%+住民税10%)。
- → iDeCoがNISA一本より約150万円多い
※手数料・生涯約7万円は差し引き済み。
差の源は、30年分の還付です。
元本で約72万円、それを再投資して育てると約160万円になります。
(※厳密には、所得税分は現金で戻り、住民税分は翌年の天引きが安くなる形。まとめて「還付」と呼んでいます)
なお、上のグラフは次の章で説明する「出口の税金ゼロ」の受け取り方で計算したものです。
仮にいちばん税金が重い「65歳に全額一時金」を選んでも、出口税は約50万円——それでもNISA一本より約100万円勝ちます。
出口がどちらに転んでも、勝敗は変わりません。
ただし、公平のために。
この勝ち分は「入口の節税 − 出口の税金」なので、入口が痩せている人は逆転されえます。
- 住宅ローン控除で所得税がほぼ全額戻っている期間——iDeCoの節税が掛金の10%(住民税分)だけに細ります。控除は最長13年なので勝ちが消えるほどではありませんが、この期間だけ掛金を抑えるのも手
- 扶養内で働く年・育休などで所得がない年——入口の節税がゼロになり、手数料と出口の税金だけが残る。ここは本当に負け得ます。そういう年は掛金を下げる(または止める)のが合理的
- 大きく積んで、全額一時金で受け取る組み合わせ——入口の得は掛金に比例ですが、出口の税金は累進で加速します。残高が大きいほど「年金形式で流し込む」設計(次章)が必須になります
出口の設計図——「年金形式」で、空いている枠に流し込む
一時金の枠が"すきま"しか残らないなら、どうするか。
答えは、「公的年金等控除」というもう1つの非課税枠に流し込むことです。
勤続43年の枠2,410万円に収まる → 税ゼロ
繰下げ自体も1か月0.7%の増額。年金用の非課税枠が丸ごと空く
年110万円の枠に流し込む → 税ゼロ
カギは③。
65歳以降は「公的年金等控除」という年110万円の別の非課税枠があります。
公的年金を繰り下げている間はこの枠が丸ごと空くので、iDeCoを年110万円以内で分割して流し込めば、税金ゼロ。
月1万円30年の残高(約800万円)なら、10年分割で年80万円——枠に収まります。
- 繰下げは、iDeCoの受け取りが終わるまで続ける(途中で年金をもらい始めると、その年から110万円の枠は公的年金で埋まります)
- 66〜75歳の生活費は、退職手当とNISAから。iDeCoの年80万円は「その足し」くらいの位置づけ
- 受け取り開始時に、iDeCo内の商品は元本確保型に切り替える前提(運用を続けると残高が育って、後半の受取額が年110万円をはみ出すため。運用を続けたい人は、はみ出た分を75歳に一時金で受け取れば——調整後でも枠が約210万円残るので、税は数万円で済みます)
年金形式の受け取り時は、税額に関係なくいったん7.6575%が源泉徴収されます(年80万円なら約6.1万円)。確定申告すれば全額戻ってくるので、「税ゼロ」は申告後の姿です→退職した年の確定申告の記事。受け取りは年1回にまとめると、給付手数料(1回440円)の節約にもなります。
※年下の配偶者がいる人は、繰下げ中は「加給年金」が止まるので、その損得だけ年金事務所で確認を。
考え方は同じです。
定年後に再任用などで働かない(または収入が小さい)年は、公的年金等控除・年60万円+基礎控除が丸ごと空きます。
そこと65歳以降の110万円枠にiDeCoを年金形式で振り分ければ、一括受け取りなら数十万円の税金を、年数万円レベルまで圧縮できます。
(65歳までフルに働くつもりなら、65歳以降の枠にまとめて回せば大丈夫です)
共通の注意
年金形式の受け取りは国民健康保険料に響くことがある(控除内ならほぼ影響なし)→ 詳しくはFIRE後の社会保険料の記事へ。
そして入口。
上限いっぱい積むほど出口の管理が難しくなるのは前回と同じ結論です。
2026年12月から上限が実質・月5.4万円(共通枠6.2万円−共済の年金分8,000円)に上がりますが、思考停止の「とりあえず満額」はやめておく——無理のない額なら、出口はこの記事の設計図で十分さばけます。
口座はどこで開く?——職場に来る営業より、ネット証券
最後に、これから始める人へ。
現役のころ、僕の職場にも金融機関がよくiDeCoやNISAの営業に来ていました。
顔の見える安心感はあるのですが、手数料を比べてから決めてください。
iDeCoは口座を置く金融機関に「運営管理手数料」を払います。
ここが窓口系の金融機関だと月300円前後(年3,000〜4,000円)、ネット証券大手(SBI・楽天・マネックスなど)だと0円。
月300円としても、30年で手数料だけで約11万円の差になります。
(※どこで開いても共通でかかる月171円は別。低コストの投資信託の品ぞろえも、ネット証券のほうが充実しています)
ちなみに僕自身、NISA口座は楽天証券で運用しています。
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楽天証券で口座を開設する(公式サイト)まとめ:出口は怖くない。でも、"設計"はいる
- 公務員の退職手当は、非課税の枠のほとんどを使ってしまう(65歳定年・勤続43年なら、iDeCoに残るのは約210万円)
- 枠を2回使う「ずらし」も、公務員は10年を作れず使えない
- でも重複調整は二重取り防止にすぎず、どう受け取っても税額はほぼ同じ。「ずらせないと大損」は計算ミス
- 出口で課税されても、iDeCoはNISA一本に約150万円勝つ(月1万・30年・税率20%)
- 出口の正解は「年金形式で、空いている枠に流し込む」。66歳以降の年110万円枠で税ゼロ設計が可能
- 入口は無理のない額で。FIREを目指す人は前回の記事へ
出口で税金がかかるのは、本当です。
でも計算してみれば、恐れて避けるほどの金額ではなく、受け取り方しだいでゼロにもできる。
制度は今後も変わります(5年ルールが10年になったように)。
でも「枠の仕組み」と「正しい計算式」を知っていれば、変更のたびに自分で答えを出せます。
その参考になれば幸いです。
・総務省「令和7年 地方公務員給与実態調査」(都道府県の定年退職手当)
・総務省・人事院「定年引上げ」関係資料(65歳定年・段階スケジュール・1967年4月2日以降生まれの基準)
・東京都「中小企業の賃金・退職金事情」/経団連「退職金・年金に関する実態調査」/厚生労働省「就労条件総合調査」(民間の退職金水準・制度なし約25%)
・国税庁「公的年金等の課税関係」(公的年金等控除・65歳以上110万円/65歳未満60万円)
・厚生労働省「iDeCoがパワーアップします!」(令和8年12月改正・拠出限度額)
※内容は2026年7月時点の制度に基づきます。


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